バッハの森通信第62号 1999年1月20日 発行

巻頭言 「集まった熱い思い」

年賀状に発見した
新しい年を創り出す元気

再び新しい年が巡ってきて、今年も多くの方々から年賀状を頂きましたが、毎年いただく年賀状から、バッハの森について、皆様方の新しい思いをうかがうことができることは、大変うれしいことです。普段、バッハの森のプログラムに参加して活動している方々は、今年もご一緒に活動できる喜びを確かめて下さいましたし、しばらくお目にかかっていない方々は、バッハの森の活動に共感する思いを伝えて下さいました。
例えば、「毎年、確実に歩みを続けていらっしゃること、尊敬申上げ、遠くから応援させていただいています」(札幌、神戸)、「充実した活動を進めていらっしゃるお力に頭が下がります」(富山)、「心の糧になる御活動、さらにと願っています」(東京)と励まして下さる方々、「励まされています」(東京)、「勇気づけられております」(福島)、「爽やかなものを感じています」(東京)などと書いて下さる方々、それに「バッハの森通信をいつも楽しみにしています」と知らせて下さった大勢の方々がいました。そして、「プログラムを見るたびに、もう少し近ければ参加出来るのに」(盛岡、仙台、福島)、「ご案内をいただくたびに行きたくてたまらなくなりますが...」(茨城)という嘆息もうかがいました。中には「なかなか足が届きません。バッハの森は遠くにありて想うものなのかもしれません」(東京)と、諦めムードの方もいらっしゃいましたが、相当数の方々が「今年こそはうかがいたい」と年頭の決意を語って下さいました。
1985年の創立以来、バッハの森は今年で15年目を迎えます。現在、北は北海道から南は沖縄まで、日本各地にお住まいの約300人の方々が、会員としてバッハの森に参加し、バッハの森を応援して下さっています。実は創立数年後、会員数が500人になったことがありました。当時は多種多様のサークルがあって、コンサートもほとんど毎月開きましたから、人は集まりましたが、こうして集まった人たちに、バッハの森の創立目的を理解していただくことはできませんでした。個々のサークルやプログラムに興味を持って参加した皆さんにとって、当然、バッハの森は、公民館やコンサートホールと同じような会場の一つに過ぎませんでしたから。
それでも、バッハの森の創立目的が、集まった皆さんの考えに近ければ、今頃、1000任意上の会員を集めていたかもしれません。しかし、テーマはバッハを頂点とする「バロック時代の教会音楽」、目標は心に響く音楽を創り出すこと、そのためには、この種の音楽の歌詞の出典である「聖書」を学び、歌詞を理解して表現することを目指す、と説明した途端、多くのプロの音楽家たちはポカンとし、アマの音楽愛好家は反発しました。正確な音程とリズムとテンポが整えば十分ではないか。何で聖書などと難しいことを言い出すのか、というわけです。
このような主張をしたせいでしょう。「バッハの森は難しい」という世評を聞くことがあります。しかしこれは不本意な誤解です。バッハの森の原点は、理解以前に経験する素朴な感動を追い求める熱い思いです。例えば、ドイツ語も受難物語を知らなくても、要するに何を表現しているか全く分からなくても、バッハの「マタイ受難曲」を聴いて感動した、という経験の持ち主は大勢います。その感動の根源を追求し始めると、難しさがだんだん分かって来るものなのです。それでも、もっとも大切なことは、原点となった感動に対する熱い思いだと私たちは考えています。
バッハの森という小さな学習コミュニティーに集まっている熱い思いは、純粋に精神的な思いです。精神的とは、目に見えない、人を生かす根源的なエネルギーです。簡単に言えば、「元気」です。バッハの森は、「バロック時代の教会音楽」や「聖書」に、この種の「元気」が満ち溢れていることを発見するところです。このような「元気」によって新しい年を創り出すために、熱い思いを集めているコミュニティーにあなたも参加なさいませんか。

(石田友雄)

リポート

'98年秋のシーズンには、新しい試みとして、教会音楽科の学生をドイツから招きました。また3回連続の公開講座によって、学習プログラムを充実し、最後にクリスマス人形群の飾り付け、コンサート、朗読劇、祝会と高揚したクリスマスで一年を終ることができました。 国際交流の新しい試み 1989年以来、現在シュヴェリン大聖堂カントル、ハンブルク音楽大学教授のヤン・エルンスト氏を毎年招待してコンサートを開き、1992年以降は、彼の友人でカウンターテナー歌手、マインデルト・ツヴァルト氏にも参加して頂いて、フェスティヴァルを開催、4年前からは彼らと語らって、春の連休期間中にバロック教会音楽をテーマとする4日間のワークショップを開いてきました。さらに、一昨年の秋には、カントリンとしてケルンで活躍している大原佳代さんを招いて、2日間のワークショップとオルガンコンサートを開き、成果を収めることができました。このように、バッハの森では、ヨーロッパの教会音楽の伝統を直接継承して活動している音楽家たちを招いて、共に学びともに音楽するプログラムを、徐々に発展させてきました。
問題は、ヤンにしても大原さんにしても多忙な方々ですから、それ程何週間もドイツを留守にすることはできません。そこで、秋のシーズンに2ヶ月くらい、バッハの森で一緒に音楽してくれる若い人を捜してもらえないか、とヤンに頼んでおいたところ、ハンブルク音楽大学の教会音楽家に学ぶブラジル人留学生、ジョジネイア・ゴディニョさんが紹介されました。彼女は10月8日から11月23日まで7週間、バッハの森に滞在して、合唱とオルガンを指導、オルガン・コンサートを1回開き、2回の教会音楽コンサートでオルガニストを努めて下さいました。
ハンブルク聖ヤコビ教会のオルガニスト、ヴォルフガンク・ツェーラー氏に師事している彼女から、オルガン演奏については多くの示唆を得ることができましたが、もっとも期待していた合唱指導は、必ずしも彼女の得意とすることではありませんでした。更に言葉の問題がありました。日常会話はともかく、合唱を指導するために、彼女の英語力は余りにも不十分でしたし、ドイツ語も会話は上手なのですが、歌詞の発音を教えるためには、まだまだ勉強していただく必要がありました。このように、少々期待外れだった点もありましたが、バッハの森の若いメンバーには同世代の気安さが楽しかったようです。何と言っても、これは最初の試みですから、問題点を修正しながら、このような国際交流を、できる限り続けて行きたいと考えています。

楽しかったクリスマスの朗読劇

昨年のクリスマスには、4年前に制作したスライドによる人形劇、「アマールと3人の王様」を、今度は朗読劇として再演し、バッハの森クワイアの皆さんの熱演で、大人も子供も大変楽しみました。また、名画のスライドによる「クリスマス物語」の朗読もありました。
このとき、小学校低学年のガールスカウトの皆さんを引率してきて下さった先生たちが、次のような感想を書いて下さいました。「絵本で読んだクリスマス関連のお話も朗読で改めて聴いて大変楽しく鑑賞できました」。「クリスマスといえばプレゼントしか頭に浮かばない子供達に、キリストの誕生日だということが、よく分かったと思います。ただ聖霊や祭司など、なじみのない宗教用語が難しかったのではないでしょうか。」他方、子供たちが全員「イエス・キリストのことやクリスマスの意味がよく分かりました」という感想文を残してくれたのが、とても印象的でした。


たより

*11月8日に開かれたジョジネイア・ゴディニョさんのオルガンコンサートに参加した高橋新一氏(杉並区)から頂いた手紙:

本日は、素晴らしいアーレント・オルガンの響きをありがとうございました。オルガン演奏の前に、参加者全員で歌ったことが印象に残っています。(註:この日のプログラムからコラール「われ汝を呼ぶ、主イェス・キリストよ」を歌いました)。都心のコンサートホールでは味わうことのできない、よい経験をさせて頂きました。きめの細かい、素晴らしい演奏で、バッハのホ長調のフーガでは、感動してぞくぞくしてしまいました。またコンサートの後の歓談とオルガン見学で感動を深めることができました。筑波の田園の中にあるバッハの森で、暖かい人達に出会うことができ、バッハの森に、アーレント・オルガンは本当によく似合うなあと思いました。

*J.ゴディニョさんが、ハンブルクから下さったクリスマスカード。原文はドイツ語です:

楽しいクリスマスと新年おめでとうございます。いつも音楽の新しい発見が、大きな喜びとなりますように。ご多忙だったと思いますが、楽しいクリスマスだったことを願っております。皆様のところで過ごした日々のことをよく思い出し、仕事のお申し出に感謝しております。私にとってあれは一つの経験でした。本当にどれほど沢山のことを学んだかは、しばらくしてから初めて明らかになるでしょう。今はご想像どおり、バッハの森のアーレント・オルガンと沢山の練習時間を失ったことを痛感しています。



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