バッハの森通信第80号 2003年10月20日 発行

巻頭言

バッハと一緒に感動しよう

3つの課題に同時に挑戦する面白さ

  バッハの森の秋のシーズンに、夏休み前に別れたときのメンバーがほぼ全員集合。新入会員もあって、活気溢れる活動が再開されました。
 バッハの森は、どの活動に参加するか、しないか、続けるか、続けないか、メンバー各自が自分で決める自由な組織です。しかも、免状も資格も授与しませんから、何の実利も義務もありません。参加する理由は「面白さ」だけです。こんな状況で、ここ数年来、週1回から月1回まである、定期的な活動の固定会員が増え、バッハの森の活動は、自分の生活のリズムを造るため、不可欠になったと言う人すら出てきました。
 これほど皆をバッハの森に惹きつけている「面白さ」とは何でしょうか。それは、ここで皆で取り組んでいる課題に挑戦する面白さだと思います。

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 この秋も、パレストリーナ、シュッツ、バッハ、ヘンデルなど、ルネサンス・バロックの宗教音楽を、合唱、ハンドベル、オルガン、声楽、研究会など、いろいろな方法で学んでいますが、すべての活動を通じて、特に次の3つの課題と取り組んでいます。
 第1の課題は、「音程とテンポとリズム」。音楽をする人なら誰でも取り組んでいる当たり前の課題です。音を聴き、音を合わせる、難しさと喜びを、私たちも日々味わっています。
 第2の課題は「歌詞の発音」。ヨーロッパ人の言葉で綴られた歌詞を発音することは難しいことです。それでも、練習すれば音を真似することはできます。しかし、音の真似だけでは、本当の発音にはなりません。発音とは、表面の意味に止まらず、言葉の本当の意味を知って初めてできることですから。
 しかも、バロック音楽は、歌詞に音楽がついているのであって、その逆ではありません。私たちは、歌詞の意味を理解して発音する音楽の美しさを追求しています。
 第3の課題は「音楽の表現」。表現と言っても、強弱のことではありません。それは第1の課題に含まれる問題です。これは、音程も発音も手段であって目的ではないということ。音楽を表現するための、音程であり発音だということです。言い換えれば、この音楽は何を表現しているのか、という問いかけです。

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 それにしても、「音楽の表現」を問題にすることが難しい時代です。一般に人々が音楽に期待することは、情緒的なメロディー、美しいハーモニー、軽快なリズムというような、感覚的な心地よさであって、考えなければ解らないような「表現」ではないからです。
 しかし、バッハの森では、魂を揺さぶるような動のある音楽を追求しています。そこで、この音楽は何を表現しているのか、という問いかけが、いつでも私たちの最も重要な課題なのです。
 これは易しい課題ではありません。例えば、バッハの音楽が何を表現しているのか、という問いかけを追求し始めると、先ず山ほど知識が必要なことに気づきます。ドイツの讃美歌(コラール)、ルターの宗教改革、中世の教会音楽、キリスト教、聖書等々の表面的な知識を収集するだけでも大変です。
 しかも、この知識収集の目的は、これらの宗教文化を素材に、バッハが表現した感動を理解し、彼と一緒に感動することですから、音程や発音の克服とは比べものにならない広がりと深さを持つ課題なのです。

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 バッハの森では、これら3つの課題に同時に取り組んでいます。そうすると、すべての問題が徐々に解る面白さを味わうことができます。これはバロック宗教音楽の素晴らしさです。あなたもご一緒に挑戦してみませんか。他では味わえない感動をお約束します。

(石田友雄)


REPORT/リポート/報告

2002年活動紹介1
 バッハの森ハンドベル・クワイア

活動の回顧
 記録によると、1985年1月13日に、「開館記念の集い」をしたバッハの森は、その1ヶ月後、2月12日に、講師に木村栄子さんを迎えて「ハンドベル特別講習会」を7回開きました。以後、練習を重ねた後、4月12日に「バッハの森ハンドベル・クワイア」が発足しました。しかし、それに先立ち、4月7日に開いた「コラールとカンタータの会」(現在の「J. S. バッハの宗教音楽」)で「今日、イェス・キリストはよみがえりたまえり」(18世紀、作曲者不詳)他の演奏をしています。
 それから10年、最盛時には、常時、17名、18名のメンバーが参加して大きな曲も演奏できるようになり、しばしばバッハの森の外にも演奏に出掛けるほど成長しました。しかし、このような華々しい活動が、バッハの森の目指す音楽と違う方向に向かっていることに、しばらくの間、誰も気づきませんでした。
 やがて、何を目指しているのか、という問題を巡って意見の相違が表面化し、1995年3月に、それまでの中心メンバーが退会しました。これで派手な活動は停止し、しばらく試行錯誤を繰り返していましたが、1998年12月に、一旦、活動を中止しました。
 翌年、9月に少人数で再開したとき、始めは、チェンジ・リンギングをしたり、ハンドベル演奏の基本的な技術を学び直したりしながら、コラールを単旋律で演奏していましたが、続けているうちに、各メンバーの技術と意識が徐々に高くなり、昨年からは、5、6人の少人数で2声のコラール、バッハのシンフォニア、カンタータのアリアなどを、声楽アンサンブルや低音楽器と一緒に演奏できるようになりました。

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 現在、バッハの森ハンドベル・クワイアのメンバーは5人(うち1人は休会中)。音楽教室の一部として活動しています。指導は、石田一子。練習日時は毎週水曜日午前10時〜12時、発表は月1回、土曜日午後6時〜7時(J. S. バッハの宗教音楽)、年数回日曜日(教会音楽コンサートなど)。
 10月1日の練習の後で、ハンドベル・クワイアの現状について、全員で自由に話し合ってもらいました。また、その日都合が悪かった1人のメンバーからは、その前日、感想を聞きました。以下はその要約です。

充実した楽しい練習

司会:Aさんは、最初の大きなグループで活躍していた一人ですが、今月、久しぶりに現在のグループに参加してくださいました。前のグループと比較してみて、現在のグループは、どんな特徴があると思いますか。

A :先ず大きなグループのときは、大人数で楽しそうにやっているので、誰でも参加し易いように見えましたが、特に終わりの頃は、余りにもしっかり組織されていて、新しい人が入り難かったようです。これに反して、現在のグループは、一人一人のメンバーの完成度がとても高くて、外からはとても難しそうに見えたのですが、何の問題もなく入れていただけたので、感謝しています。

B:それは、あなたがハンドベルの基本的な技術をしっかりもっていらしたからだけど、確かに組織として出来上がっていたグループと、一人一人のメンバーが独立しながら協力して音楽造りをしている現在のグループの違いを解ってくださったようですね。

A:前は一度に沢山の曲を練習しなければならなかったせいでしょうか、一人一人が持つベルの数は少ないのですが、とても忙しかった印象です。今度は、一人が持つベルの数はすごく多くて大変なのですが、一曲のコラールの歌詞を読み、歌ってみて、その表現をじっくり話し合いながら考えていくので、何だかひどくゆったりした気分になれます。それでいて、あっと言う間に時間がたってしまう、本当に充実した楽しい練習です。それに、前は音符に従って音楽を表現していましたが、今は歌を歌いながら自然に表現が解ってくる感じです。

最近の演奏について

司会:先週の土曜日、「J. S. バッハの宗教音楽」で、コラール「心より我、なんじを愛しまつる、おぉ、主よ」をハンドベルで演奏しました。この演奏を聴いた皆さんから、いつもより沢山の感想が寄せられました。「音楽的表現が素晴らしい。感動した」、「テンポ感がとてもよくて、聴かせる」、「歌い込んだコラールなので“チョー”良かった」というような声を聞いていますが、演奏なさった皆さんはいかがでしたか。

C:実はとても緊張していたので、全体がすみずみまでは聴けませんでした。

D:これは5月のワークショップで歌ったコラールだから、私たちだけでなく、聴いていた皆さんもよく知っていたことが、良かったんじゃないですか。

司会:バッハの森が、一つの学習コミュニティーになってきた表れだと思います。演奏者と聴衆が、演奏される音楽を同じように知っているのが理想ですから。

メンバー募集の問題

司会:どんなことが、今、一番問題ですか。

B:メンバーが少ないので、演奏曲目がとても限られていることです。せめて数人、増えて欲しいのですが。

E:新しい方をお誘いする難しさに、水曜日の練習だけでは足りないということがあります。初めから、他の会と抱き合わせでハンドベルに入る人は、そういないんじゃないでしょうか。

B:そう言えば、今のメンバーは、全員、バッハの森クワイア(混声合唱)で歌っていますね。そのうち半数はオルガン教室にも参加なさっているし、いろいろな研究会にも出席しています。皆さん、ハンドベル以外の音楽的表現も学んでいることが、最近急速にレベルアップした原因だと思います。

F:メンバーがただ増えればいいと言うわけじゃないから難しいですね。それでも音楽入門として、ハンドベルはとても良い楽器だと思いますけれど。

D:私はハンドベルから入門しました。合唱やオルガンと違って、音の出し方が易しいから、自分の思いの表現をし易いし。でも、その後で合唱やオルガンも始めてみて、今は、いろいろな音楽を学ぶことが一番いいことだと思っています。

B:前はハンドベルで入門して、だんだん他の音楽に興味を持ってくだされば、と考えていましたけれど、今は合唱やオルガンをしている人が、ハンドベルに入ってくださるといいと思うようになりました。ハンドベルをすると、何と言っても“自己中”では出来ませんし、音楽の息や間(マ)の取り方を体験することができますから。

F:指揮者なしで演奏しているので、他の人のベルの音を良く聴かなければなりません。お陰で、合唱のときも他の人の声が聴こえるようになってきたと思います。

司会:クワイアの指揮者が言ってましたよ。ハンドベル・クワイアの皆さんは、音楽をよく理解した上で、一人一人が責任を持ち、なお全員で一つの音楽を造り上げている。合唱のお手本にしたい、と。ではさらに良い音楽造りを楽しんでください。ありがとうございました。

(司会と文責:石田友雄)


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